薬局の個別指導に強い、弁護士の鈴木陽介です。
ここでは、近畿厚生局の薬局の保険個別指導での、調剤全般(処方せんの取扱い、処方内容の薬学的確認、分割調剤、調剤録)、調剤技術料(調剤基本料、一包化加算、自家製剤加算、時間外加算、夜間・休日等加算)に関する事項の指摘事項をご紹介します。指摘事項は、近畿厚生局の公表資料「平成30年度 個別指導(調剤)における主な指摘事項」に基づいており、弁護士が適宜修正等しています。
薬局・薬剤師の個別指導については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】薬局の個別指導と監査の上手な対応法
1 目次(近畿厚生局の調剤指摘事項)
Ⅰ 調剤全般に関する事項
1 処方せんの取扱い
2 処方内容に関する薬学的確認
3 調剤
4 分割調剤
5 調剤済処方せんの取扱い
6 調剤録の取扱い
Ⅱ 調剤技術料に関する事項
1 調剤基本料
2 調剤料
3 調剤料又は調剤技術料に係る加算
嚥下困難者用製剤加算
一包化加算
自家製剤加算
計量混合調剤加算
調剤技術料の時間外加算等
調剤料の夜間・休日等加算
2 調剤全般に関する事項
1 処方せんの取扱い
(1)ファクシミリにより電送された処方内容に基づいて行う薬剤の調製等について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① ファクシミリにより電送された処方内容に基づいて薬剤を調製し、処方箋発行保険医療機関内で、処方箋の受領、処方箋の記載内容とファクシミリの処方内容が同一であるかの確認及び薬剤の交付を行っている。(薬剤師は、薬剤師法第22条に基づき、医療を受ける者の居宅等において調剤の業務のうち厚生労働省令で定めるものを行う場合を除き、薬局以外の場所で、販売又は授与の目的で調剤してはならない。)
(2)その他
① 特定の医療機関の従業員が持参した当該医療機関の患者に係る処方箋を受け付け、当該特定の医療機関の従業員に薬剤の交付を行っている不適切な例が認められたので改めること。
ア 処方箋は、患者又は現にその看護に当たっている者から受け付けること。
イ 保険薬剤師は、薬剤師法第25条の2に基づき、患者又は現にその看護に当たっている者に対し、必要な情報の提供及び必要な薬学的知見に基づく指導を行うこと。
(不備のある処方箋)
(3)次の不備のある処方箋を受け付け、調剤を行っている不適切な例が認められたので改めること。
① 保険医の記名・押印がない。
② 所定事項(交付年月日)の記載がない。
③ 「処方」欄中の「変更不可」欄に「✓」又は「×」が記載されているにもかかわらず、「保険医署名」欄に処方医の署名又は記名・押印のない処方箋をそのまま受け付け、調剤を行っている。
④ 処方箋の使用期間を超過している。
⑤ 70枚を超えて湿布薬が処方されている処方箋につき、処方医が当該湿布薬の投与が必要であると判断した趣旨について、処方箋の記載より確認できない。
(処方箋の「処方」欄の記載不備)
(4)「処方」欄の記載に次の不備のある処方箋につき、疑義照会をせずに調剤を行っている不適切な例が認められたので改めること。
① 用量の記載がない又は不十分である。
② 用量の記載が不適切である。
③ 用法の記載がない又は不十分である。
④ 用法の記載が不適切である。
2 処方内容に関する薬学的確認
(1)処方内容について確認を適切に行っていない(処方医への疑義照会を行っているものの、その内容等を処方箋又は調剤録に記載していないものを含む。)次の例が認められたので改めること。
① 薬剤の処方内容より禁忌投薬が疑われるもの
② 医薬品医療機器等法による承認内容と異なる効能効果(適応症)での処方が疑われるもの
③ 医薬品医療機器等法による承認内容と異なる用量で処方されているもの
④ 医薬品医療機器等法による承認内容と異なる用法で処方されているもの
⑤ 過量投与が疑われるもの
⑥ 倍量処方が疑われるもの
⑦ 相互作用(併用禁忌・併用注意)が疑われるもの
⑧ 重複投薬が疑われるもの
⑨ 薬学的に問題がある多剤併用が疑われるもの
⑩ 投与期間の上限が設けられている医薬品について、その上限を超えて投与されているもの
⑪ 漫然と長期にわたり処方されているもの
【例】月余にわたるビタミン製剤の投与
8週間を超えるPPIの投与
⑫ 外用薬について、塗布部位、貼付部位が不明確なもの
3 調剤
(1)調剤について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 処方された医薬品と異なる医薬品を調剤している。
(後発医薬品への変更調剤)
② 一般名処方に係る処方箋を受け付けた場合であって、当該処方に係る後発医薬品を支給可能又は備蓄しているにもかかわらず、先発医薬品を調剤している。(一般名処方に係る処方箋を受け付けた保険薬局の保険薬剤師は、患者に対して後発医薬品に関する説明を適切に行うとともに、後発医薬品を調剤するよう努めなければならない。)
③ 先発医薬品から後発医薬品への変更調剤が可能な処方箋を受け付けた場合であって、当該処方に係る後発医薬品を支給可能又は備蓄しているにもかかわらず、先発医薬品を調剤している。(先発医薬品から後発医薬品への変更調剤が可能な処方箋を受け付けた保険薬局の保険薬剤師は、患者に対して後発医薬品に関する説明を適切に行うとともに、後発医薬品を調剤するよう努めなければならない。)
4 分割調剤
(1)分割調剤について、次の不適切な例が認められたので改めること。
(注7)
① 長期投薬に係る処方箋について、薬剤の保存が困難であること等の理由により分割して調剤を行う場合、調剤録に分割調剤した理由を記載していない。
5 調剤済処方せんの取扱い
(調剤済処方箋の記載事項の不備)
(1)調剤済処方箋について、次の事項の記載がない又は不適切若しくは不明瞭な例が認められたので改めること。
① 調剤済年月日
② 保険薬局の所在地
③ 保険薬局の名称
④ 保険薬剤師の署名又は記名・押印
(2)調剤済処方箋の「備考」欄又は「処方」欄に記入する次の事項の記載がない又は不適切な例が認められたので改めること。
① 医師又は歯科医師に照会を行った場合、その回答内容
6 調剤録の取扱い
(1)調剤録について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 調剤録を編綴していない又は編綴が不十分である。
(2)調剤録の記入について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 次の事項を記載していない。
ア 調剤した薬剤師の氏名
イ 薬剤師法第24条の規定により医師、歯科医師に疑わしい点を確認した場合、その回答内容
ウ 調剤した薬剤について、次の事項 ・ 請求点数 ・ 患者負担金額
② 二本線で抹消したのではなく、塗りつぶしにより修正している。
(3)処方箋に基づく調剤を行った場合、調剤録に当該調剤に関する必要な事項を遅滞なく記載すること。
3 調剤技術料に関する事項
1 調剤基本料
(受付回数)
(1)受付回数を1回とすべきところを2回受付としている(同一日に複数の処方箋を受け付けた場合において、同一の保険医療機関で一連の診療行為に基づいて交付された処方箋について受付回数を2回として算定している。)不適切な例が認められたので改めること。
2 調剤料
(1)調剤料について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 内服薬(薬剤名及び薬剤名)につき、1剤とすべきところ、2剤として算定している。
② 頓服薬で算定すべきところ、内服薬で算定している。
3 調剤料又は調剤技術料に係る加算
嚥下困難者用製剤加算
(1)嚥下困難者用製剤加算について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 嚥下障害等がない患者について算定している。
② 市販されている剤形(顆粒又は細粒)での服用が可能と思われる患者について算定している。
一包化加算
(1)一包化加算について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 服用時点の異なる2種類以上の内服用固形剤又は1剤であって3種類以上の内服用固形剤が処方されていないときに算定している。
② 治療上の必要性が認められない場合に算定している。(一包化は、多種類の薬剤が投与されている患者においてしばしばみられる薬剤の飲み忘れ、飲み誤りを防止すること又は心身の特性により錠剤等を直接の被包から取り出して服用することが困難な患者に配慮することを目的として行うものである。)
③ 医師の了解を得た上で行ったものではない場合に算定している。
④ 薬剤師が一包化の必要を認め、医師の了解を得た後に一包化を行った場合において、医師の了解を得た旨又は一包化の理由を調剤録等に記載していない又は記載が不十分である。
⑤ 服薬時点ごとに一包化ができていない。
⑥ 吸湿性が強い等の理由で薬剤を直接の被包から取り出さずに交付している場合に、その薬剤を除いた2種類以上の薬剤に服用時点の重なりがないにもかかわらず算定している。
自家製剤加算
(1)自家製剤加算について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 調剤上の特殊な技術工夫を行っていない。(自家製剤とは、個々の患者に対し市販されている医薬品の剤形では対応できない場合に、医師の指示に基づき、容易に服用できるよう調剤上の特殊な技術工夫を行った場合に算定するものである。)
② 調剤した医薬品と同一剤形及び同一規格を有する医薬品が薬価基準に収載されている。
③ 調剤録等に製剤工程を記載していない。
④ 医薬品の特性を十分理解し、薬学的に問題ないと判断していない。
計量混合調剤加算
(1)計量混合調剤加算について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 医薬品の特性を十分理解し、薬学的に問題ないと判断していない。
② 液剤、散剤若しくは顆粒剤又は軟・硬膏剤以外を計量し、かつ、混合した調剤において算定している。
調剤技術料の時間外加算等
(1)時間外加算等について、次の不適切な例が認められたので改めること。
(時間外加算)
① 常態として調剤応需の態勢をとり、開局時間内と同様な取扱いで調剤を行っているにもかかわらず、時間外加算を算定している。
調剤料の夜間・休日等加算
(1)調剤料の夜間・休日等加算について、次の不適切な例が認められたので改めること。
① 薬剤服用歴の記録又は調剤録に平日又は土曜日に算定した患者の処方箋の受付時間を記載していない。
個別指導に臨む薬局の方は、お電話下さい。指導への対応を弁護士がアドバイスします。
薬局・薬剤師の指導、監査のコラム
薬局・薬剤師の指導、監査のコラムの一覧です。
個別指導(薬局)の際に、また日常の薬局運営にご活用下さい。
薬局個別指導での指摘事項
関東信越厚生局の指摘事項
平成26年度
1
関東信越厚生局の個別指導(1):調剤、調剤録、調剤技術料
2
関東信越厚生局の個別指導(2):薬学管理料、請求事務
平成27年度
3
関東信越厚生局の個別指導(3):調剤内容、処方せん
4
関東信越厚生局の個別指導(4):薬剤服用歴、明細書
平成28年度
5
関東信越厚生局の個別指導(5):調剤技術料、薬学管理料
6
関東信越厚生局の個別指導(6):届出事項、一部負担金
東海北陸厚生局の指摘事項
7
東海北陸厚生局の個別指導(1):処方せん、調剤
8
東海北陸厚生局の個別指導(2):調剤録、調剤技術料
9
東海北陸厚生局の個別指導(3):薬学管理料
10
東海北陸厚生局の個別指導(4):届出事項、掲示事項
近畿厚生局の指摘事項 平成28年度
11
近畿厚生局の個別指導(1):処方せん、調剤、調剤録
12
近畿厚生局の個別指導(2):調剤技術料、調剤基本料
13
近畿厚生局の個別指導(3):薬剤服用歴管理指導料
14
近畿厚生局の個別指導(4):届出・掲示事項、一部負担金
平成29年度
15
近畿厚生局の個別指導(5):調剤全般、調剤技術料
16
近畿厚生局の個別指導(6):薬学管理料、事務的事項
平成30年度
17
近畿厚生局の個別指導(7):調剤全般、調剤技術料
18
近畿厚生局の個別指導(8):薬学管理料、事務的事項
保険薬局・保険薬剤師の取消の実例
1
保険薬局・薬剤師の取消の実例(1):情報提供の個別指導
2
保険薬局・薬剤師の取消の実例(2):無資格調剤による取消
3
保険薬局・薬剤師の取消の実例(3):監査拒否による取消処分
4
保険薬局・薬剤師の取消の実例(4):虚偽の処方せんの不正請求
5
保険薬局・薬剤師の取消の実例(5):別薬局の調剤分の不正請求
6
保険薬局・薬剤師の取消の実例(6):医院の個別指導からの監査
7
保険薬局・薬剤師の取消の実例(7):架空請求有罪判決での監査
8
保険薬局・薬剤師の取消の実例(8):処方せん付替えの不正請求