薬局の個別指導、監査に強い弁護士の鈴木陽介です。
ここでは、監査拒否による保険薬局の指定の取消相当、保険薬剤師の登録の取消しと執行停止の実例をご紹介します。近畿厚生局の平成26年7月付けの取消処分・取消相当の実例であり、説明のため簡略化等をしています。
薬局・薬剤師の個別指導と監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】薬局の個別指導と監査の上手な対応法
監査拒否による取消処分と執行停止
1 個別指導・監査に至った経緯
近畿厚生局の公表資料によれば、個別指導に至った経緯、監査に至った経緯は以下のとおりです。
1 患者からの架空請求の情報提供
平成23年8月、患者から大阪府を通じて近畿厚生局に対し、医療費通知に調剤を受けていない薬局が記載されているとの情報提供があった。
【コメント】
この情報提供は、患者が調剤を受けていない薬局について医療費通知に記載されているというもので、いわゆる架空請求の情報提供となります。
架空請求は、不正請求のなかでもランクが高い不正に分類され、厚生局としては特に厳格に対応するものと思われます。なお、本ケースのように、患者が厚生局に直接情報提供をしない場合でも、保険者などを介して厚生局に情報提供されることがあります。
2 無資格調剤の疑いによる個別指導中断
平成23年11月、個別指導を実施したところ、当該薬剤師が保険薬剤師の登録のない期間(以下「未登録期間」という。)に保険調剤していることが疑われたことから個別指導を中断した。
【コメント】
情報提供は架空請求の不正請求でしたが、個別指導の結果、無資格者の調剤での不正請求の疑いが生じています。情報提供に基づく個別指導の結果、新たな不正請求の疑義が生じるケースが稀ではありません。
3 患者調査による無資格調剤の確認
平成24 年1月、患者調査を実施したところ、未登録期間に当該薬剤師から保険調剤を受けた旨の回答があり、提示を受けたお薬手帳又は薬剤情報提供文書に当該薬剤師の記名押印が認められたことから、調剤報酬の不正請求が疑われた。
【コメント】
患者調査が実施され、無資格調剤を裏付ける事実が確認されています。患者調査では、通常、不正請求が疑われる事項だけでなく、他の事項も含め広く調剤について、調査・確認がなされます。
4 個別指導の再開の通知後の薬局廃止
平成24 年1月、個別指導の再開を通知したところ、2月付けの廃止届が提出された。
【コメント】
薬局を廃止すると、厚生局の現在の運用では、個別指導は実施されません。個別指導の通知を出した後でも、実施日の前に薬局が廃止された場合は、個別指導はなくなります。本ケースでは、薬局が廃止されたため、個別指導が再開できなかったものと考えられます。
5 患者調査の再実施と監査の実施
平成24 年2月、患者調査を実施したところ、未登録期間に当該薬剤師から保険調剤を受けた旨、回答があり、不正又は著しく不当な調剤報酬の請求が強く疑われたため、監査を実施することとした。
【コメント】
患者調査の実施は一度とは限らず、厚生局が必要性を認めれば、複数回実施されます。厚生局が患者調査を実施した場合でも、必ず監査になるわけではありませんが、本ケースでは、患者調査の結果、不正請求が強く疑われ、監査に至っています。
2 取消処分の理由:監査拒否
九州厚生局の公表資料によれば、取消処分の主な理由は以下のとおりです。なお、取消処分にあたっては、平成26年6月に開催された近畿地方社会保険医療協議会で「保険薬剤師の登録の取消」が妥当との答申及び「元保険薬局の指定の取消相当」についての建議がなされています。
【取消処分・取消相当の理由】
健康保険法等に基づく監査を実施する旨、通知したところ、当該元保険薬局の開設者である有限会社は、調剤録その他の帳簿書類を提出せず、出頭を拒否した。
また、当該元保険薬局の当該保険薬剤師は、出頭を拒否した。
これらのことは、健康保険法等に基づく監査について、保険薬局が、調剤録その他の帳簿書類の提出を命ぜられてこれに従わず、また、保険薬局の開設者及び従業者である保険薬剤師が、出頭を求められてこれに応ぜず、検査を拒み、忌避したものであり、保険医療機関又は保険薬局の指定の取消しを定めた健康保険法第80条に該当し、保険医又は保険薬剤師の登録の取消しを定めた健康保険法第81条に該当する。
【コメント】
本ケースの開設者は、監査について、3回出頭を拒否し、6回関係書類提出を拒否し、取消相当となっています。正当な理由なく監査を欠席した場合は、取消しの対象となりますので、十分注意する必要があります。
3 監査拒否の状況
九州厚生局の公表資料によれば、監査拒否の状況は以下のとおりです。
平成24年3月〜平成25年5月
1 出頭拒否の状況
開設者 正当な理由による欠席:2回
出頭拒否 :3回
薬剤師A 正当な理由による欠席:2回
出頭拒否 :3回
薬剤師B 出頭拒否 :3回
薬剤師C 出頭拒否 ;3回
薬剤師D 出席 :1回
出頭拒否 :3回
2 関係書類提出拒否の状況
開設者 提出拒否 :6回
4 保険薬局・保険薬剤師の再登録等
原則として、登録の取消及び指定の取消相当の日から5年間は、保険薬剤師の再登録及び保険薬局の再指定を行わない。
【登録の取消及び指定の取消の根拠条文】
1 保険薬剤師の登録の取消
健康保険法第81条第2号及び第3号
2 保険薬局の指定の取消
健康保険法第80条第4号、第5号及び第6号
5 保険薬剤師の登録取消の執行停止の解除
平成29年5月
保険薬剤師の登録の取消しについて(執行停止の解除)
近畿厚生局長は、薬剤師B〜Dの3名に対し、 平成26年7月付けで保険薬剤師の登録を取り消すとして、通知したところ、当該薬剤師から大阪地方裁判所に対し、保険薬剤師の登録取消処分の取消しを求めて訴訟(以下「取消訴訟」といいます。)が提起され、あわせて執行停止が決定されました(取消訴訟の第1審判決言渡し後60日が経過する日まで)。
平成28年5月に、大阪地方裁判所において、当該薬剤師の請求をいずれも棄却する判決の言い渡しがされたところですが、当該薬剤師から、大阪高等裁判所に対して、同判決に不服があるとして控訴が提起され、あわせて執行停止が決定されました(取消訴訟の判決が確定するまで)。
平成28年11月に、大阪高等裁判所において、当該薬剤師の控訴をいずれも棄却する判決の言い渡しがされたところですが、当該薬剤師から、最高裁判所に対して、同判決に不服があるとして上告が提起されました。
このたび、平成29年5月に、最高裁判所において、当該薬剤師の上告を棄却する旨の決定がされ、取消訴訟の判決が確定しました。
したがって、保険薬剤師の登録取消処分が有効となり、保険調剤ができなくなりましたのでお知らせします。
保険薬局の個別指導、監査に臨む薬局の方は、お電話下さい。指導監査の対応を弁護士がアドバイスします。
薬局・薬剤師の指導、監査のコラム
薬局・薬剤師の指導、監査のコラムの一覧です。
監査拒否での薬局の取消しの実例の他、様々なケースをご紹介しています。
個別指導(薬局)の際に、また日常の薬局運営にご活用下さい。
薬局の指導監査
1
薬局の個別指導と監査
保険薬局・保険薬剤師の取消の実例
1
保険薬局・薬剤師の取消の実例(1):情報提供の個別指導
2
保険薬局・薬剤師の取消の実例(2):無資格調剤による取消
3
保険薬局・薬剤師の取消の実例(3):監査拒否による取消処分
4
保険薬局・薬剤師の取消の実例(4):虚偽の処方せんの不正請求
5
保険薬局・薬剤師の取消の実例(5):別薬局の調剤分の不正請求
6
保険薬局・薬剤師の取消の実例(6):医院の個別指導からの監査
7
保険薬局・薬剤師の取消の実例(7):架空請求有罪判決での監査
8
保険薬局・薬剤師の取消の実例(8):処方せん付替えの不正請求
9
保険薬局・薬剤師の取消の実例(9):不正請求の匿名の情報提供
10
保険薬局・薬剤師の取消の実例(10):不正請求の厚生局への報告
11
保険薬局・薬剤師の取消の実例(11):不正請求の報告書の疑義
12
保険薬局・薬剤師の取消の実例(12):不正な処方箋の集約の通報
13
保険薬局・薬剤師の取消の実例(13):関東信越厚生局の監査
14
保険薬局・薬剤師の取消の実例(14):処方箋の集中率の不正操作
15
保険薬局・薬剤師の取消の実例(15):処方箋受付回数の不正操作