薬局の個別指導、監査に強い弁護士の鈴木陽介です。
ここでは、架空請求の容疑で逮捕され有罪判決を受けた薬剤師について、監査となり調剤報酬の不正請求(架空請求)で元保険薬局の指定の取消相当、保険薬剤師の登録の取消しとなった実例をご紹介します。近畿厚生局の平成31年3月付けの取消処分の実例であり、説明のため簡略化等をしています。
薬局・薬剤師の個別指導と監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】薬局の個別指導と監査の上手な対応法
架空請求での逮捕、有罪判決による薬局、薬剤師の監査
1 監査に至った経緯
近畿厚生局の公表資料によれば、監査を行うに至った経緯は以下のとおりです。
1 捜査機関の捜査の情報提供
平成28年1月8日及び15日、大阪府国民健康保険団体連合会から大阪府を通じて、近畿厚生局指導監査課に対し、以下のとおり情報提供があった。
@平成27年4月から5月頃以降、奈良県国民健康保険団体連合会及び大阪府国民健康保険団体連合会が調剤報酬明細書を調査したところ、サフラン及びザイボックス錠が特定の医療機関から特定の患者に対して長期に渡り大量に処方されていることが判明した。
Aこの処方に係る調剤及び調剤報酬の請求が、当該薬局において集中して行われており、当該薬局の管理薬剤師である薬剤師に対しても患者として大量に処方されていることが判明し、審査支払機関における査定及び捜査機関による捜査などが進められている。
【コメント】
調剤報酬の不正請求は、刑法上の詐欺罪が成立する場合があります。厚生局の指導監査の枠組みによる調査等とは別の仕組みとして、不正請求について、警察・検察が、刑事事件として捜査等に動くこともあります。
調剤報酬の請求について刑事事件化し有罪判決となった場合は、その内容等により、厚生局側も後追い的に、指導監査の仕組みで行政処分等をすることが稀ではありません。厚生局側が捜査機関の捜査について把握した場合は、厚生局側としても、指導監査の仕組みなどで対応するか、捜査等の状況を勘案しつつ、独自に判断していくものと考えられます。
2 不正請求での逮捕、新聞報道
平成28年5月25日、薬局の経営者でもある薬剤師が奈良県葛城市に対してサフラン及びザイボックス錠の調剤報酬を不正請求した容疑で大阪府警に逮捕された旨の報道があった。また、平成28年7月1日、薬剤師が大阪市に対してウーロン茶を漢方薬と称し患者に渡してサフランの調剤報酬を不正請求した容疑で大阪府警に再逮捕された旨の新聞報道があった。
【コメント】
本ケースでは、捜査が進み、薬剤師が不正請求の容疑で警察に逮捕された旨の新聞報道がなされています。
私の印象としては、重大な健康被害に繋がるようなケースや、架空請求などの悪質でわかりやすいケース、組織的な不正で反社会的勢力の関与が疑われるケース、行政側が刑事事件化を強く求めているケースなどが、刑事事件化しやすく、逆に、そういったケースではない場合は、警察はなかなか動かない、というイメージです。
3 調剤報酬架空請求での有罪判決
平成29年3月29日、薬剤師は、患者に対し、サフラン及びザイボックス錠を調剤した事実がないにもかかわらず、それを調剤したように装い、大阪府国民健康保険団体連合会等に対し虚偽の内容の調剤報酬明細書を提出して調剤報酬を請求したことを認め、懲役4年10月の判決が言い渡された。
【コメント】
懲役4年10月の判決は、実刑判決であり、重い判決と思います。詐欺に該当する調剤報酬の不正請求は、重大な犯罪ですので、逮捕され起訴されることもありますので、軽く考えることがないようにする必要があります。
4 架空請求の疑いによる監査の実施
以上のことから、実際には行っていない調剤を行ったものとして調剤報酬を不正に請求していた疑いが濃厚となったため、平成29年4月7日から平成30年8月2日の計9日間の監査を実施した。
【コメント】
上記のとおり、刑事事件化していても、厚生局は厚生局として保険薬剤師の監査・取消処分を行うことができます。
なお、保険薬剤師の登録の取消の流れとは別の仕組みとして、さらに、薬剤師の免許に係る医道審議会の仕組み(免許取消・業務停止等)もありますので、注意が必要です。
2 取消処分の理由
近畿厚生局の公表資料によれば、取消処分・取消相当の主な理由は以下のとおりです。
なお、取消処分・取消相当にあたっては、平成31年3月に開催された近畿地方社会保険医療協議会に「保険薬剤師の登録の取消及び元保険薬局の指定の取消相当」が妥当との答申がなされています。
【行政処分等の主な理由】
1 調剤報酬の架空請求
実際には行っていない保険調剤を行ったものとして、調剤報酬を不正に請求していた。
2 調剤報酬の付増請求
実際に行った保険調剤に行っていない保険調剤を付け増して、調剤報酬を不正に請求していた。
3 懲役4年10月の有罪判決
管理者である薬剤師は、平成29年3月29日に詐欺罪で大阪地方裁判所から懲役4年10月の判決が言い渡され、刑が確定している。
【コメント】
監査においては、薬剤師の刑事事件での判決・事実認定を参考に、厚生局が調査・確認をすすめたものと思われます。本ケースで取消処分がなされた年月は平成31年3月であり、平成29年4月の監査の開始から、約1年11か月がかかっています。
3 調剤報酬の不正請求額
近畿厚生局の公表資料によれば、監査において判明した不正請求金額は、監査で使用した平成24年11月分から平成27年6月分までのレセプトのうち以下のとおりです。
不正請求 15名分 135件 6223万2463円
なお、監査において判明した分以外についても、不正請求のあったものについては、監査の日から5年前まで遡り保険者等へ返還させることとしています。
4 取消処分の根拠条文等
原則として、登録の取消及び指定の取消相当の日から5年間は、保険薬剤師の再登録及び保険薬局の再指定は行いません。
【取消処分の根拠条文】
保険薬局の指定の取消
健康保険法第80条第6号及び第8号
保険薬剤師の登録の取消
健康保険法第81条第1号、第3号及び第5号
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薬局・薬剤師の指導、監査のコラム
薬局・薬剤師の指導、監査のコラムの一覧です。
架空請求での有罪判決での監査の実例の他、様々なケースをご紹介しています。
個別指導(薬局)の際に、また日常の薬局運営にご活用下さい。
薬局の指導監査
1
薬局の個別指導と監査
保険薬局・保険薬剤師の取消の実例
1
保険薬局・薬剤師の取消の実例(1):情報提供の個別指導
2
保険薬局・薬剤師の取消の実例(2):無資格調剤による取消
3
保険薬局・薬剤師の取消の実例(3):監査拒否による取消処分
4
保険薬局・薬剤師の取消の実例(4):虚偽の処方せんの不正請求
5
保険薬局・薬剤師の取消の実例(5):別薬局の調剤分の不正請求
6
保険薬局・薬剤師の取消の実例(6):医院の個別指導からの監査
7
保険薬局・薬剤師の取消の実例(7):架空請求有罪判決での監査
8
保険薬局・薬剤師の取消の実例(8):処方せん付替えの不正請求
9
保険薬局・薬剤師の取消の実例(9):不正請求の匿名の情報提供
10
保険薬局・薬剤師の取消の実例(10):不正請求の厚生局への報告
11
保険薬局・薬剤師の取消の実例(11):不正請求の報告書の疑義
12
保険薬局・薬剤師の取消の実例(12):不正な処方箋の集約の通報
13
保険薬局・薬剤師の取消の実例(13):関東信越厚生局の監査
14
保険薬局・薬剤師の取消の実例(14):処方箋の集中率の不正操作
15
保険薬局・薬剤師の取消の実例(15):処方箋受付回数の不正操作