薬局の個別指導、監査に強い弁護士の鈴木陽介です。
ここでは、情報提供(通報)の個別指導による保険薬局の指定の取消し、保険薬剤師の登録の取消しの実例をご紹介します。九州厚生局の平成28年7月付けの取消処分の実例であり、説明のため簡略化等をしています。
薬局・薬剤師の個別指導と監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】薬局の個別指導と監査の上手な対応法
情報提供、通報での個別指導、監査、取消処分
1 個別指導・監査に至った経緯
九州厚生局の公表資料によれば、個別指導、監査に至った経緯は以下のとおりです。
1 情報提供、通報による個別指導
景品等の配布及び一部負担金の減免が行われているとの情報提供があったことから、平成19年度に個別指導を実施し、その後も、毎年度、個別指導を実施していた。
【コメント】
保険者や患者、退職したスタッフから、調剤報酬の不適切な請求の情報提供、通報が厚生局にあった場合、厚生局はその内容や真実性を吟味の上、個別指導などを実施することがあります。
厚生局は、情報提供があれば必ず個別指導などに踏み切る、というわけではありません。いわゆる高点数や再指導ではなく、情報提供で個別指導になったと判断される場合は、厚生局が個別指導に踏み切る相応の根拠が厚生局側にある、と考えるべきと思います。もっとも、個別指導に選定された理由となった情報提供の内容について、厚生局側は(原則として)薬局に教えてくれませんので、個別指導を経ても、薬局側としてはどのような情報提供があったのか、あたりがつかないケースも稀ではありません。
2 個別指導(再指導)の中断
平成27年2月、当該保険薬局に対し個別指導を実施したところ、お薬手帳へ貼付または記載をすることなく、手帳用シールを提供(手交)したのみ(この場合、34点)であるにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料(お薬手帳へ手帳用シールを貼付または記載をした場合、41点)を一律に算定しているとの説明がなされたこと、薬剤服用歴の記録について不自然な点が認められ、それらに対する明確な回答が得られなかったことから個別指導を中断した。
【コメント】
本ケースでは、いわゆる再指導において、不適切な請求の疑義が生じています。個別指導の結果、再指導となれば、再指導が控えているため、再指導に向けて薬局側もより慎重に調剤報酬の請求を行うところですが、本ケースでは、その点について、結果から判断すれば、不適切であったといえると思われます。
3 個別指導の再開と中止、監査への移行
平成27年5月、個別指導を再開したところ、当該薬剤師から、薬剤服用歴の記録に関し、ほぼ全ての患者について服薬指導の要点等を記録していないにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料を算定していたとの説明がなされたことから、調剤内容及び調剤報酬の請求に不正又は著しい不当が疑われたため、個別指導を中止し、監査を実施した。
【コメント】
薬剤師が不適切な調剤報酬の請求を認め、不正請求の疑義のため、個別指導が中止となり、監査に至っています。
本ケースでは、既に繰り返し当該薬局に個別指導が実施されてきた背景があり、そこで、厚生局としては、このまま個別指導を繰り返し行い改善を求めても改善が期待できないとの判断が、監査の実施の一事情としてあるかもしれません。
2 取消処分の理由
九州厚生局の公表資料によれば、取消処分の主な理由は以下のとおりです。なお、取消処分にあたっては、平成28年7月に開催された九州地方社会保険医療協議会に諮問がなされ、諮問のとおり答申がなされています。
1 不正請求
@ その他の請求
請求することができない調剤報酬を不正に請求していた。
【具体的事例】
・薬剤服用歴の記録に、服薬指導の要点等の記載をしておらず、過去の薬歴に基づく服薬指導等を行っていないにもかかわらず、薬剤服用歴管理指導料を請求していた。
2 不当請求
@ 算定要件を満たさない調剤技術料及び薬剤料を不当に請求していた。
A 処方せんが保存されていないにもかかわらず、調剤技術料、薬学管理料及び薬剤料を不当に請求していた。
【コメント】
本ケースで取消処分がなされた年月は平成28年7月であり、平成27年2月の個別指導(再指導)の開始から、約1年5か月がかかっています。薬局への個別指導の実施から取消処分に至るまで、相当の期間がかかります。
3 調剤報酬の不正請求、不当請求の金額
九州厚生局の公表資料によれば、監査で確認した不正・不当請求のレセプト件数と金額は以下のとおりです。
平成26年4月〜平成27年3月
・不正請求 60名分 レセプト 438件 20万6230円
・不当請求 45名分 レセプト 219件 19万9383円
合 計 105名分 レセプト 657件 40万5613円
4 保険薬局・保険薬剤師の取消の根拠条文
1 保険薬局の指定取消
健康保険法第80条第1号、第2号、第3号及び第6号
2 保険薬剤師の登録取消
健康保険法第81条第1号及び第3号
保険薬局の個別指導、監査に臨む薬局の方は、お電話下さい。指導監査の対応を弁護士がアドバイスします。
薬局・薬剤師の指導、監査のコラム
薬局・薬剤師の指導、監査のコラムの一覧です。
情報提供、通報での薬局個別指導、監査の実例の他、様々なケースをご紹介しています。
個別指導(薬局)の際に、また日常の薬局運営にご活用下さい。
薬局の指導監査
1
薬局の個別指導と監査
保険薬局・保険薬剤師の取消の実例
1
保険薬局・薬剤師の取消の実例(1):情報提供の個別指導
2
保険薬局・薬剤師の取消の実例(2):無資格調剤による取消
3
保険薬局・薬剤師の取消の実例(3):監査拒否による取消処分
4
保険薬局・薬剤師の取消の実例(4):虚偽の処方せんの不正請求
5
保険薬局・薬剤師の取消の実例(5):別薬局の調剤分の不正請求
6
保険薬局・薬剤師の取消の実例(6):医院の個別指導からの監査
7
保険薬局・薬剤師の取消の実例(7):架空請求有罪判決での監査
8
保険薬局・薬剤師の取消の実例(8):処方せん付替えの不正請求
9
保険薬局・薬剤師の取消の実例(9):不正請求の匿名の情報提供
10
保険薬局・薬剤師の取消の実例(10):不正請求の厚生局への報告
11
保険薬局・薬剤師の取消の実例(11):不正請求の報告書の疑義
12
保険薬局・薬剤師の取消の実例(12):不正な処方箋の集約の通報
13
保険薬局・薬剤師の取消の実例(13):関東信越厚生局の監査
14
保険薬局・薬剤師の取消の実例(14):処方箋の集中率の不正操作
15
保険薬局・薬剤師の取消の実例(15):処方箋受付回数の不正操作