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不正請求の厚生局への報告書に疑義が生じた薬局の取消相当の実例です。保険薬局の個別指導、監査は、薬局の指導監査に強い弁護士にご相談下さい。

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保険薬局・保険薬剤師の取消の実例(11):不正請求の報告書の疑義

薬局の個別指導、監査に強い弁護士の鈴木陽介です。


ここでは、厚生局に薬局が自主的に提出した不正請求に係る報告書に疑義が生じた保険薬局の指定の取消相当の実例をご紹介します。東北厚生局の令和3年12月付けの取消相当の実例であり、説明のため簡略化等をしています。

薬局・薬剤師の個別指導と監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。

【コラム】薬局の個別指導と監査の上手な対応法

不正請求の報告書に疑義が生じた薬局取消相当の実例


 1 監査に至った経緯

東北厚生局の公表資料によれば、監査の経緯は以下のとおりです。

1 不正請求の報告書の厚生局への自主的な提出
平成31年2月5日、株式会社の職員が東北厚生局福島事務所に来所し、薬局において、調剤を行っていないにもかかわらず、他の薬局から調剤済処方箋を集約し、薬局において調剤を行ったものとして、医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律第49条第2項の規定に基づく帳簿への記載等を行った事実について管轄する自治体へ報告した旨の報告書の提出があった。

なお、報告書及び聴取確認した内容によると、会社からの具体的な取組内容の指示はないが、調剤基本料1が算定可能となるよう薬局の処方箋集中率を95%以下とするために、同一開設者の他の保険薬局で調剤した職員及びその家族の処方箋15例を薬局に集約したこと、また、当該処方箋15例を除いて集計した場合でも処方箋集中率は94.99%であり調剤基本料の算定に影響がなかったとのことであったが、算出根拠が不明であるため、根拠を示す資料の提出について、追加で報告を求めた。

【コメント】
いわゆる処方箋の集中率の操作、処方箋の付け替えの不正請求があったことを、薬局が厚生局に報告し報告書を提出しています。

ここで気になる点は、不適切な処方箋の付け替えをしたとする15例を除いて集計した場合でも、処方箋集中率は94.99%であり、95%以下で、調剤基本料の算定に影響はなかったということです。これは大きな偶然であり、処方箋の付け替えをする必要がなかったことになりますが、厚生局としては、本当に15例だけなのかと、素朴な疑義を感じた可能性があります。

2 報告書の報告内容の疑義
平成31年2月28 日、東北厚生局医療課に職員が来局し、薬局の平成29年度の処方箋集中率の算出根拠となる平成28年3月1日から平成29年2月28日までの間の全ての調剤済処方箋の写し、医薬品譲渡書兼請求書(引用者注:医薬品の店舗間移動の際に作成する書類)の写し及び処方箋集中率の推移に関する資料の提出があった。

このため、医療課において資料を確認したところ、平成28年3月から平成29年2月までの間において、全処方箋受付回数から他の店舗から集約したとされる不適切な15例の処方箋及び特例除外(注:時間外、休日、深夜加算等350回分)となる処方箋を差し引いた処方箋受付回数は14,292回であり、そのうち、主たる保険医療機関からの処方箋の受付回数は13,577回で、集中率は94.997%で調剤基本料1の施設基準に適合していた。

しかしながら、報告があった15例以外にも、職員及びその家族の処方箋について、薬局の近隣以外の医療機関が発行する処方箋で、処方箋と同一の医薬品が同一数量分、医薬品譲渡書兼請求書により店舗間移動されている不自然な事例や、使用期間を超え本来は無効とすべき処方箋を調剤していた疑いのある事例が複数あることが確認され、仮にあと1例でも不適切な処方箋があれば集中率は95%を超過し、薬局が平成29年4月から平成30年3月までの間に算定していた調剤基本料1について、施設基準の不適合となる可能性があることが判明した。

【コメント】
薬局からの調剤処方箋の写しの提出を受けた厚生局が確認したところでは、報告があった15例以外にも、適正に調剤報酬の請求がなされているか不自然な事例などが確認され、厚生局としては、本当に15例だけなのか、薬局への疑義が深まったものと思われます。

仮に、薬局があえて意図的に報告書で実態と異なる報告を行い、調剤基本料に係る返還等を免れようとしているとすれば、それは、厚生局として、厳格な対応に結び付くものと考えられます。

3 個別指導の対象としての選定
平成31年3月13 日、選定委員会を開催し、薬局を個別指導の対象として選定した。

【コメント】
厚生局としては、そもそも不正請求を自主的に報告している薬局であり、報告内容に疑義もあることから、個別指導を行い、慎重に対応しようと判断したものと考えられます。

4 中間報告書、最終報告書の提出
平成31年3月15日、医療課に職員が来局し、株式会社の同日付けの中間報告書の提出があり、また、同年4月24日、医療課に職員が来局し、同日付けの報告書(以下「最終報告書」という。)の提出があった。

【コメント】
中間報告書、最終報告書においても、公表資料を素直に読んだところでは、15例以外のものについて薬局が結論を変更したことは窺えません。厚生局としては、係る報告書では、上記の疑義が解消されなかったものと考えられます。

5 個別指導の実施、個別指導の中断
令和元年9月24日、薬局に処方箋を送付したと報告のあった福島県内の保険薬局について個別指導を実施したところ、自局において薬剤を交付していたにもかかわらず薬局に処方箋を送付した事実を確認した。また、同日、本件の薬局の個別指導も実施したところ、最終報告書に記載のあった15例の不適切な処方箋の集約を確認したが、上記に記載した不自然な事例等について十分な説明が得られず、時間内に疑義が解消しなかったことから、個別指導を中断した。

【コメント】
処方箋の付け替えの不正請求の場合、複数の薬局で不適切な事象が生じていることが通例であり、本ケースのように、関係する複数の薬局で(同日に)個別指導が実施され、事実関係を確認等されることがあります。

本ケースで厚生局は、上記の疑義について個別指導で薬局に確認したものの、十分な説明が得られず、疑義が解消せず、個別指導の中断に至っています。

6 厚生局の疑義に対する薬局の報告
令和元年10月30日、職員と薬局の管理薬剤師が福島事務所に来所し、最終報告書に記載した15例以外の不自然な事例については、いずれも実際に薬局に処方箋を持ち込み、調剤を受けたものであるが、使用期間を超えた処方箋の調剤応需については、事実を認める旨の報告があり、処方箋集中率の算出根拠として無効として取り扱う必要性が認められた。

【コメント】
薬局の職員が厚生局に報告を行い、薬局において使用期間を超えた処方箋の調剤応需について認め、そのため、厚生局として、処方箋集中率の算定根拠として無効と取り扱う必要性が認められることとなりました。

7 集中率についての自認
令和元年12月10日、個別指導を再開し、改めて集中率について質問したところ、「10月30日の面談後に再計算したところ95.01%でした。」との回答があり、薬局が平成29年4月から平成30年3月まで算定した調剤基本料1及び平成29年6月から平成30年3月まで算定した基準調剤加算について、いずれも届出時から施設基準に適合していなかったことが強く疑われたため、改めて個別指導を中断した。

【コメント】
薬局が集中率について95%を超過していることを認め、そこで、施設基準について、薬局が適合していなかった疑義が濃厚となりました。

8 個別指導の中止、監査の実施
以上により、調剤報酬を不正に請求していることが強く疑われたため、個別指導を再開せず、令和2年3月6日付け通知により中止し、監査要綱の第3の1及び2に該当するものとして、同月17日から令和3年6月22日までの間において計12日間の監査を実施した。

【コメント】
本ケースで、不正請求の報告書で集中率について疑義が生じたことが影響し監査に至ったのか、それとも、そのような疑義がなくても処方箋の付け替えの不正請求であり監査になったのか、不明でありますが、厚生局の上記の本件経緯の捉え方からすると、上記の疑義について、厚生局が大きな問題と捉えていたであろうことが窺えます。

 2 取消相当の理由

東北厚生局の公表資料によれば、取消相当の主な理由は以下のとおりです。

【保険薬局の事故】

1 処方箋の付け替えでの不正請求
実際には、同一開設者の他の保険薬局で行った調剤を係る保険薬局で調剤を行ったものとして、調剤報酬を不正に請求していた。

2 医薬品の移動での不正請求
同一開設者の他の保険薬局で調剤した医薬品を処方箋とともに係る保険薬局に移動して当該薬局で調剤を行ったものとして、調剤報酬を不正に請求していた。

【コメント】
調剤した医薬品の別の保険薬局への移動での不正請求が認定されています。

3 施設基準の届出に係る不正請求
本来は「調剤基本料3」の施設基準で届出しなければならないにもかかわらず、(ア)同一開設者の他の保険薬局で行った調剤を係る薬局で調剤を行ったものとして操作し、また、(イ)同一開設者の他の保険薬局で調剤した医薬品を処方箋とともに係る薬局に移動して当該薬局で調剤を行ったものとして操作し、更には(ウ)使用期間を超過した処方箋を調剤応需し、「調剤基本料1」の施設基準(特定の保険医療機関に係る処方箋による調剤の割合が9割5分以下)の基準に適合しているとして施設基準の虚為の届出を行ったことに加え、「調剤基本料1」を算定している保険薬局においてのみ加算できる「基準調剤加算」の施設基準の不適切な届出を行い、調剤報酬を不正に請求していた。

【コメント】
結果的にみると、不正請求について薬局が自主的に厚生局に報告書を提出したものの、監査が実施され、取消相当という厚生局の重い対応に至っています。

 3 調剤報酬の不正請求額

東北厚生局の公表資料によれば、監査において判明した不正・不当請求額(社保・国保・後期高齢の合計)は、以下のとおりです。
 
 不正請求額 2601名分 10875件 487万7706円
 不当請求額     6名分     7件      2136円

※ 上記の金額は、監査で判明したものだけであり、最終的な不正、不当の金額は、今後精査していくこととしているので確定していない。なお、原則として、指定の取消相当の日から5年間は、保険薬局の再指定は行わない。


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個別指導(薬局)の際に、また日常の薬局運営にご活用下さい。

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