薬局の個別指導、監査に強い弁護士の鈴木陽介です。
ここでは、匿名で処方箋の受付回数が不正に操作されているなどの情報提供・通報があり、東海北陸厚生局により個別指導が実施され、監査、保険薬局の指定の取消相当となった実例をご紹介します。東海北陸厚生局の令和5年6月付けの取消相当の実例であり、説明のため簡略化等をしています。
薬局・薬剤師の個別指導と監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】薬局の個別指導と監査の上手な対応法
処方箋受付回数の不正操作の情報提供があった取消相当の実例
1 監査に至った経緯
東海北陸厚生局の公表資料によれば、取消相当に至った経緯は以下のとおりです。
1 匿名での処方箋受付回数の不正操作の通報
令和3年4月7日、匿名の者から東海北陸厚生局三重事務所に対し、薬局において、処方箋の受付回数が1月に1,800回を超えないように一部の患者のレセプトコンピュータで保存している調剤報酬データを消去して調剤報酬の請求をしている。これは、調剤基本料の点数が、42点から26点に減らないようにしているからだと思う旨の情報提供があった。
【コメント】
本ケースでは、厚生局に、匿名の者から、薬局で処方箋の受け付け回数を操作している旨の情報提供がありました。情報提供の内容からしますと、レセプトコンピュータの調剤報酬データを消去していることを把握していることから、当該薬局のスタッフ(退職したスタッフ)などの内部者(元内部者)からの情報提供と思われます。
2 個別指導の実施、個別指導の中断
令和3年12月16日、個別指導を実施したところ、複数名の患者について、処方箋、調剤録及び薬剤服用歴の記録があるにもかかわらず、当該患者の調剤報酬の請求が行われていないことを確認し、
このことについて、管理薬剤師に確認したところ、一部の患者について調剤報酬の請求を行っていないことを認め、関係資料の精査が必要なため、個別指導を中断した。
【コメント】
個別指導が実施され、匿名の者からの情報提供内容に沿った事実関係が明らかになり、係る薬局への処方箋受け付け回数の不正操作の疑義が深まっています。
3 管理薬剤師の不正の自認と個別指導の中止
令和4年1月27日、個別指導を再開したところ、管理薬剤師は次の事実について認めたため、個別指導を中止した。
@ 令和3年3月15日に提出した調剤基本料1の施設基準届出書の処方箋の受付回数について、調剤基本料1の施設基準を満たすよう一部の患者の処方箋受付がなかったように装い、実際の処方箋受付回数より少ない数字に改ざんの上、記載して届出している。
A 併せて、調剤基本料1の施設基準を届出することにより、令和3年6月1日に、本来届出できない地域支援体制加算の施設基準を届出している。
【コメント】
個別指導が再開され、管理薬剤師が、処方箋の受付回数を操作し、実際の処方箋受付回数より少ない数字に改ざんをして届出をしてることなどを認め、個別指導が中止となっています。
4 処方箋受付回数不正操作の疑義での監査の実施
以上より、調剤報酬の請求に関して不正又は著しい不当が強く疑われたため、監査要綱の第3の1及び2に該当するものとして、令和4年3月23日から同年10月6日まで計5日間の監査を実施した。
【コメント】
以上のとおり、匿名の者からの処方箋の受付回数の操作の通報を端緒に、監査に至っています。監査の期間としては、令和4年3月から同年10月までの5日間となっています。
2 取消相当の理由
東海北陸厚生局の公表資料によれば、取消相当の主な理由は以下のとおりです。
1 処方箋の受付回数の操作での不正請求
「調剤基本料1」の施設基準(処方箋集中率が95%を超え、処方箋の受付回数が1月に1,800回を超えないもの)に適合していないため、「調剤基本料2」で届け出るべきところ、処方箋の受付回数を操作し、「調剤基本料1」の施設基準に適合しているとして虚偽の届出を行い、調剤報酬を不正に請求していた。
【コメント】
情報提供された処方箋の受付回数の操作に係る不正請求が監査で確認されています。
2 施設基準に係る虚偽の届出での不正請求
「地域支援体制加算」の施設基準(調剤基本料1以外を算定する保険薬局)に適合していないにもかかわらず、調剤基本料1を算定する保険薬局の区分にて虚偽の届出を行い、調剤報酬を不正に請求していた。
【コメント】
上記の処方箋の受付回数の操作での不正請求に係る不正請求も確認されています。
3 虚偽の報告
「令和3年度 施設基準実施状況報告書」について、虚偽の報告を行った。
4 不正請求分の一部負担金の受領
不正請求分に係る一部負担金を受領していた。
【コメント】
患者から不正請求分に係る一部負担金を受領していたときは、その患者に返還すべきものとなります。施設基準に係る不正請求の場合、返還すべき患者の人数が特に多くなる傾向があり、留意する必要があります。
3 調剤報酬の不正請求金額
東海北陸厚生局の公表資料によれば、監査において判明した不正請求金額は、以下のとおりです。
不正請求 2326名 1万991件 452万2648円
※ なお、原則として、5年間は保険薬局の再指定は行わないものとされています。
保険薬局の個別指導、監査に臨む薬局の方は、お電話下さい。指導監査の対応を弁護士がアドバイスします。
薬局・薬剤師の指導、監査のコラム
薬局・薬剤師の指導、監査のコラムの一覧です。
処方箋の受付回数の不正な操作の実例の他、様々なケースをご紹介しています。
個別指導(薬局)の際に、また日常の薬局運営にご活用下さい。
薬局の指導監査
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薬局の個別指導と監査
保険薬局・保険薬剤師の取消の実例
1
保険薬局・薬剤師の取消の実例(1):情報提供の個別指導
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保険薬局・薬剤師の取消の実例(2):無資格調剤による取消
3
保険薬局・薬剤師の取消の実例(3):監査拒否による取消処分
4
保険薬局・薬剤師の取消の実例(4):虚偽の処方せんの不正請求
5
保険薬局・薬剤師の取消の実例(5):別薬局の調剤分の不正請求
6
保険薬局・薬剤師の取消の実例(6):医院の個別指導からの監査
7
保険薬局・薬剤師の取消の実例(7):架空請求有罪判決での監査
8
保険薬局・薬剤師の取消の実例(8):処方せん付替えの不正請求
9
保険薬局・薬剤師の取消の実例(9):不正請求の匿名の情報提供
10
保険薬局・薬剤師の取消の実例(10):不正請求の厚生局への報告
11
保険薬局・薬剤師の取消の実例(11):不正請求の報告書の疑義
12
保険薬局・薬剤師の取消の実例(12):不正な処方箋の集約の通報
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保険薬局・薬剤師の取消の実例(13):関東信越厚生局の監査
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保険薬局・薬剤師の取消の実例(14):処方箋の集中率の不正操作
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保険薬局・薬剤師の取消の実例(15):処方箋受付回数の不正操作