薬局の個別指導、監査に強い弁護士の鈴木陽介です。
ここでは、薬局の保険調剤(処方せん、調剤録)についてご説明します。内容は、厚生労働省保健局医療課医療指導監査室の公表資料「保険調剤の理解のために(平成28年度)」に基づいており、弁護士鈴木が適宜加筆修正等しています。
薬局・薬剤師の個別指導と監査については、以下のコラムもご覧いただければ幸いです。
【コラム】薬局の個別指導と監査の上手な対応法
V 調剤報酬点数表の留意事項:1 処方せん
○ 調剤に当たっては、処方せんが適正かどうか、また、処方されている医薬品が薬価基準収載品目であり、医薬品医療機器等法承認事項(効能・効果、用法・用量、禁忌等)等により処方されているかの確認が必要である。(使用できる医薬品の範囲:療担規則第19条、薬担規則第9条を参照)
○ 上記等について疑義が生じた場合には、必ず保険医に疑義照会を行うこと。
○ 調剤済となった処方せんに必要な事項を適切に記入すること。
1 受付・確認
ア 処方せんの確認〔薬担規則第3条〕
・ 保険医療機関の保険医が交付したものであること(保険医の署名又は記名押印の確認)
・ 処方せん又は被保険者証により療養の給付を受ける資格があること。
イ 使用期間の確認〔療担規則第20条第3号〕
処方せんの使用期間は、交付の日を含めて4日以内とされている。ただし、長期の旅行等殊の事情があると認められる場合(この場合、処方せんの「処方せんの使用期間」欄に年月日が記載される。)は、この限りでない。
ウ 処方欄の確認
・ 薬価基準収載医薬品(=厚生労働大臣の定める医薬品)が記載されていること。〔療担規則第19条、薬担規則第9条〕
・ 用法、用量が記載されているか。
・ 投与期間の上限が設けられている医薬品の処方日数がその上限を超えていないか。〔療担規則第20条、第21条〕
参考
麻薬及び向精神薬取締法に規定する麻薬の処方は、基本的に一度に14日分が限度とされているが、在宅での緩和医療を推進するため、医療の実態を踏まえ、以下の医療用麻薬は30日分処方が可能です。
[内服薬]
オキシコドン塩酸塩、オキシコドン塩酸塩水和物、コデインリン酸塩、ジヒドロコデインリン酸塩、モルヒネ塩酸塩、モルヒネ硫酸塩を含有する内服薬
[外用薬]
フェンタニル、フェンタニルクエン酸塩又はモルヒネ塩酸塩を含有する外用薬
[注射薬]
フェンタニルクエン酸塩又はモルヒネ塩酸塩を含有する注射薬
・ 医薬品医療機器等法の承認内容(用法・用量、効能・効果等)と異なる内容となっていないか。
・ 使用上の注意が守られているか。
・ 重複投薬されていないか。
エ 後発医薬品
(ア)療担規則
保険医は、投薬又は処方せんの交付を行うに当たって、後発医薬品の使用を考慮するとともに、患者に後発医薬品を選択する機会を提供すること等患者が後発医薬品を選択しやすくするための対応に努めなければならない。〔療担規則第20条〕
(イ)薬担規則
a 保険薬局は、後発医薬品の備蓄に関する体制その他の後発医薬品の調剤に必要な体制の確保に努めなければならない。〔薬担規則第7条の2〕
b 保険薬剤師は、当該処方せんを発行した保険医等が後発医薬品への変更を認めているときは、患者に対して、後発医薬品に関する説明を適切に行わなければならない。この場合において、保険薬剤師は、後発医薬品を調剤するよう努めなければならない。〔薬担規則第8条第3項〕
(留意点)
○ 変更調剤は、変更調剤後の薬剤料が変更前のものと比較して同額以下であるものに限る。
○ 後発医薬品への変更に係る情報共有後発医薬品(含量規格が異なるもの及び類似する別剤形のものを含む。)への変更調剤を行ったとき又は一般名処方に係る処方薬について調剤を行ったときは、調剤した薬剤の銘柄(含量規格が異なる後発医薬品を調剤した場合にあっては含量規格を、類似する別剤形の後発医薬品を調剤した場合にあっては剤形を含む。)等について、当該調剤に係る処方せんを発行した保険医療機関に情報提供すること。
○ 類似する別剤形の医薬品とは、内服薬であって、次に揚げる分類の範囲内の他の医薬品をいう。
・ 錠剤(普通錠)、錠剤(口腔内崩壊錠)、カプセル剤、丸剤
・ 散剤、顆粒剤、細粒剤、末剤、ドライシロップ剤(内服用固形剤として調剤する場合に限る。)
・ 液剤、シロップ剤、ドライシロップ剤(内服用液剤として調剤する場合に限る。)
なお、外用薬については、類似する別剤形の後発医薬品への変更調剤は処方医への事前確認不要の対象外
2 不適切な処方の具体例
ア 不備な処方せん
・ 複数の規格単位がある医薬品の場合に、規格単位を記載していない。
・ 用法、用量の記載がない(例:インスリン注射液、外用剤等)
・ 記載が不適切である(例:「医師の指示どおり」、「必要時」等のみの記載)
・ 約束処方による医薬品名の省略や記号等による記載
イ 医薬品医療機器等法の承認内容と異なる適応症への使用が疑われる処方
・ ゾルピデム錠を統合失調症、躁うつ病に伴う不眠症の患者に投与
・ 抗菌薬、化学療法剤を投与していない患者に対する耐性乳酸菌製剤の投与
ウ 医薬品医療機器等法の承認内容と異なる用法・用量の処方
・ アムロジピン錠、バルサルタン錠、ドキサゾシン錠等の1日2回投与
・ センノシド錠の1回48mgを超える投与
・ グリクラジド錠40mg 0.1錠 朝食後投与
・ ケトプロフェンテープ、ロキソプロフェンナトリウムテープの1日2回投与
エ 重複投与が疑われる処方
・ 異なる医師による湿布の処方
・ 異なる医師によるNSAIDsの内用薬と坐薬の処方
・ テプレノン細粒とテプレノンカプセル
・ ステロイド軟膏と抗生物質配合ステロイド軟膏
オ 薬剤の処方内容より禁忌例への使用が疑われる処方
・ 消化性潰瘍が疑われる患者に対する、総合感冒剤、アスピリン錠、アセトアミノフェン錠、ジクロフェナクナトリウム錠、ロキソプロフェンナトリウム錠等
・ うっ血性心不全が疑われる患者に対する、ピルシカイニド塩酸塩カプセル、シベンゾリンコハク酸錠等
・ 緑内障が疑われる患者に対する、オキシブチニン錠、プロピベリン錠等
・ パーキンソン病が疑われる患者に対するブロムペリドール錠、ハロペリドール錠等
・ てんかんが疑われる患者に対するマプロチリン錠等
カ 倍量処方が疑われる医薬品の処方
・ フルニトラゼパム製剤 4mg
・ ブロチゾラム製剤 0.5mg
・ その他、トリアゾラム錠、ゾルピデム錠、エスタゾラム錠等
キ 漫然と長期に渡り投与されている医薬品の処方
・ ビタミンB2錠、ビタミンB6錠、ビタミンB12錠、ビタミンC錠、混合ビタミン剤等の月余に渡る処方
(留意点:医科点数表におけるビタミン剤の算定について)
○ビタミンB群及びビタミンC製剤について、従来から「単なる栄養補給目的」での投与は算定不可
○ビタミンB群製剤及びビタミンC製剤以外のビタミン製剤についても、単なる栄養補給目的での投与は算定不可
・ エパルレスタット錠、ニセルゴリン錠、イブジラストカプセル等の12週を越える処方
・ モサプリドクエン酸塩錠の2週間を超える投与
ク 処方せん上で検査等に使用することが明確な医薬品の処方
・ 検査前投与の記載があるトリクロホスナトリウムシロップ
・ 自己注射の消毒に使用することがある消毒液
3 処方せんへ記載するべき事項
ア 薬剤師は、調剤したときは、その処方せんに次の事項を記載すること。(例えば、管理薬剤師が代表して記載しないこと。)
(ア)「調剤済年月日」(調剤済とならなかった場合は、調剤年月日及び調剤量)
(イ)「保険薬局の所在地及び名称」
(ウ)「保険薬剤師氏名 印」(調剤した保険薬剤師の署名又は姓名を記載し、押印)
イ 必要に応じて「備考」又は「処方」欄に次の事項を記載すること。
(ア)処方せんを交付した医師又は歯科医師の同意を得て処方せんに記載された医薬品を変更して調剤した場合には、その変更内容
(イ)医師又は歯科医師に照会を行った場合は、その回答の内容
4 保存
ア 処方せんの保存期間は3年間〔薬剤師法第27条、薬担規則第6条〕
イ 電磁的な保存については医療システム安全管理ガイドライン等を参照
5 その他の留意事項
ア 患者が、正当な理由がなくて、療養に関する指揮に従わないとき、又は詐欺などの不正行為により調剤を受けようとしたときは、遅滞なく、全国健康保険協会又は健康保険組合に通知すること。〔薬担規則第7条〕
イ 処方せんが偽造でないこと、ファクシミリ等で電送された処方内容に基づいて薬剤の調製等を行った場合、患者等が持参する処方せんがファクシミリ等で電送されたものと同一であること、を確認すること。
V 調剤報酬点数表の留意事項:2 調剤録
○ 調剤録は調剤報酬請求の根拠である。
○ 保険薬局は、薬担規則第10条の規定による調剤録に、療養の給付の担当に関し必要な事項を記載し、これを他の調剤録と区別して整備しなければならない。〔薬担規則第5条〕
○ 保険薬剤師は、患者の調剤を行った場合には、遅滞なく、調剤録に当該調剤に関する必要な事項を記載しなければならない。〔薬担規則第10条〕
1 調剤録に記載すべき事項
・ 患者の氏名及び年齢
・ 薬名及び分量
・ 調剤年月日
・ 調剤量
・ 調剤した薬剤師の氏名
・ 処方せんの発行年月日
・ 処方せんを交付した医師等の氏名
・ 処方した医師等の住所又は勤務する医療機関の名称・所在地
・ 処方せんに記載された医薬品を変更して調剤した場合の変更の内容及び医師等に疑わしい点を確かめた場合の回答の内容
・ 患者の被保険者証記号番号、保険者名、生年月日及び被保険者、被扶養者の別
・ 当該薬局で調剤した薬剤について処方せんに記載してある用量、既調剤量及び使用期間
・ 当該薬局で調剤した薬剤についての薬剤点数、調剤手数料、請求点数及び患者負担金額
2 調剤録の保存
・ 調剤録の保存期間は最終の記入の日から3年間〔薬剤師法第28条第3項、薬担規則第6条〕
・ 電磁的な保存については、医療情報システムの安全管理に関するガイドラインを参照
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薬局・薬剤師の指導、監査のコラム
薬局・薬剤師の指導、監査のコラムの一覧です。
個別指導(薬局)の際に、また日常の薬局運営にご活用下さい。
薬局の指導監査
1
薬局の個別指導と監査
保険薬局・保険薬剤師の取消の実例
1
保険薬局・薬剤師の取消の実例(1):情報提供の個別指導
2
保険薬局・薬剤師の取消の実例(2):無資格調剤による取消
3
保険薬局・薬剤師の取消の実例(3):監査拒否による取消処分
4
保険薬局・薬剤師の取消の実例(4):虚偽の処方せんの不正請求
5
保険薬局・薬剤師の取消の実例(5):別薬局の調剤分の不正請求
薬局・薬剤師の保険調剤の概説
1
薬局・薬剤師の保険調剤(1):保険薬局と医療保険制度
2
薬局・薬剤師の保険調剤(2):保険調剤のルールと調剤報酬
3
薬局・薬剤師の保険調剤(3):保険調剤と処方せん、調剤録
4
薬局・薬剤師の保険調剤(4):調剤点数表、調剤技術料
5
薬局・薬剤師の保険調剤(5):薬学管理料、服用歴管理指導料
6
薬局・薬剤師の保険調剤(6):薬剤師指導料、包括管理料
7
薬局・薬剤師の保険調剤(7):明細書、届出事項、標示・掲示
8
薬局・薬剤師の保険調剤(8):保険調剤の指導、監査
9
薬局・薬剤師の保険調剤(9):保険調剤と薬担規則
10
薬局・薬剤師の保険調剤(10):保険調剤の調剤基本料
11
薬局・薬剤師の保険調剤(11):保険調剤の調剤料
12
薬局・薬剤師の保険調剤(12):薬剤服用歴管理指導料
13
薬局・薬剤師の保険調剤(13):かかりつけ薬剤師指導料
14
薬局・薬剤師の保険調剤(14):かかりつけ薬剤師包括管理料
15
薬局・薬剤師の保険調剤(15):保険調剤の外来服薬支援料
16
薬局・薬剤師の保険調剤(16):在宅患者訪問薬剤管理指導料
17
薬局・薬剤師の保険調剤(17):在宅患者緊急訪問薬剤管理指導料
18
薬局・薬剤師の保険調剤(18):在宅患者緊急時等共同指導料
19
薬局・薬剤師の保険調剤(19):退院時共同指導料、情報提供料
20
薬局・薬剤師の保険調剤(20):薬剤料、特定保険医療材料料
21
薬局・薬剤師の保険調剤(21):評価療養 患者申出療養 選定療養
22
薬局・薬剤師の保険調剤(22):薬担規則の掲示事項
23
薬局・薬剤師の保険調剤(23):書面保存での情報通信技術利用
24
薬局・薬剤師の保険調剤(24):医療システムガイドライン